ジャズの醍醐味はライヴである。エレクトリックマイルスにしてもライブが圧巻なのであります。
当時アメリカにはフィルモアイーストとウェストというロックの聖地的なライブハウスがありました。ここからはサンタナやブルースをやっていた頃のボズスキャッグスなどが出てきました。そのロックファンが集まるライブハウスにジャズ畑のマイルスが殴り込みをかけました。ロックバンドの前座という屈辱にも耐えながら、ロックファンの度肝を抜く演奏を繰り広げていった訳であります。
既にロック界では、モードジャズに影響を受けたジャックブルースがクリームを結成してインプロヴィゼーションソロが流行っておりましたので、ロックファンにはジャズを聴く素養が出来上がっておりました。しかしエレクトリックマイルスの
音楽はそれだけではありません。圧倒的な音の固まりをカメハメ波のように連続速射していく訳です。さすがに面食らった事でしょう。
ディスク1 1. Directions [Wednesday Miles]
2. Bitches Brew [Wednesday Miles]
3. Mask [Wednesday Miles]
4. It's About That Time [Wednesday Miles]
5. Bitches Brew/The Theme [Wednesday Miles]
6. Directions [Thursday Miles]
7. Mask [Thursday Miles]
8. It's About That Time [Thursday Miles]
ディスク2 1. It's About That Time [Friday Miles]
2. I Fall in Love Too Easily [Friday Miles]
3. Sanctuary [Saturday Miles]
4. Bitches Brew [Saturday Miles]
5. It's About That Time [Saturday Miles]
6. I Fall in Love Too Easily [Saturday Miles]
7. Sanctuary [Saturday Miles]
8. Bitches Brew [Saturday Miles]
9. Willie Nelson/The Theme [Saturday Miles]
以前はWednesday Miles、Thursday Miles、Friday Miles、Saturday Milesの4曲しかクレジットされておりませんでした。レコードの曲を演奏しておりますが、その日によって全然別の曲のような演奏になっており、テオマセオによってカット&ペーストで編集されていたため、別の曲目でも通用したのです。しかし、実際に演奏されている曲目が付け加えられております。でもこの作品は全く新しい作品として聴いても十分聴応えのある内容です。
まずメンバーですがギターレスです。チックコリアとキースジャレットのダブルキーボード、ベースのデイヴホランド、ドラムのジャックディジョネット、ソプラノサックスのスティーヴグロスマン、パーカッションのアイアートモレイラ。アイアートは南米からの移民ですが、マイルスに認められラテンのリズムを加えたエレクトリックマイルスはより民族
音楽的要素を加えていきます。ギター以上に攻撃的なキースジャレットのキーボードプレイもここでしか聴けません。
此の時代の要はドラムのジャックディジョネットです。チャールズ・ロイドのバンドにいた彼は強引にマイルスにより引き抜かれました。チャールズ・ロイドからクレームをつけましたが、『なんだ、お前の方が引き抜かれたかったのか』とマイルスに言われ呆れていたそうです。マイルス流のジョークでしょうが、マイルスらしいセリフです。
この時代、ツェッペリンやキングクリムゾンが世に出てきますが、それらのバンド以上のパワーを炸裂しているアルバムであります。Bitches Brewも大人しく聴こえてしまうぐらい凶暴な悪徳な
音楽が支配しています。パンクやポップグループのようなアヴァンギャルドなロックさえも太刀打ち出来ないほどです。唯一対抗出来るとしたらフランクザッパ位なものでしょうか。しかしマイルスにはフランクザッパのようなユーモアは存在せず、恐ろしいほどシリアスな緊張感が漲っております。