アイルランドが生んだ絶世の歌姫ビョーク主演、カトリーヌドヌーブ助演のミュージカル映画です。ミュージカルと言っても台詞部分とミュージカル部分に分かれております。上映当時、映画館まで足を運んで見たい映画の一つでした。しかし、出不精の私は行かないまま現在に至り、DVDを購入することになりました。予想を遥かに超える出来に驚いております。
カトリーヌドヌーブはシェルブールの雨傘というミュージカルに出ていたので、経験はあったのですが、ミュージカルに出るのは珍しいことです。本人が監督のラースフォントリアーに掛け合って出演を勝ち取ったそうです。ビョークは女優ではないですが、この役にはあっていたようです。
ストーリーは簡単にしか説明しません。遺伝により視力を奪われるセルマが主人公です。息子も遺伝で視力をなくしていく運命にあるので、その治療費を稼いでいく苦労が描かれております。そして殺人を犯してしまうのですが、それ以上は説明しません。見て下さい。
全体的にセルマのドキュメンタリーを見ているようで、インタビューに答えるような喋り方がリアリティーを感じさせます。特にカトリーヌドヌーブの演技が素晴らしいのですが、出演している全ての人の演技が非常に現実的でヨーローッパ映画ならではのリアリズムを感じさせます。ミュージカルになる場面はセルマの空想の時だけですが、現実味のある流れからミュージカルの非現実的な場面への入り方が素晴らしいです。例えば、工場のノイズ音が不規則的だったものが、次第に規則的になっていき、そのリズムで歌が始まるのです。自然ではないですが、不自然でもありません。それは不思議な感覚と言うしかありません。時には列車の音が規則性を持ってミュージカルとなります。不思議な感覚の連続です。それでいてリアリズムを失っておりません。
総体的に見た感想としては、誰かが正解ではなく、誰にも正解があるということです。人それぞれがそれぞれの価値観で生きており、その価値観同士が、時には絆を生み、時には違う現実を叩き付けるのです。その結果、ラストにセルマが何を想って最後を締めくくるのかは、映画を見て自分で判断して下さい。
アメリカ映画では味わえない,美しくも儚い映像と音楽がここにはあります。
Dancer in the dark